2015年8月28日金曜日

餓鬼岳行


夏の日。
天幕を担ぎ、歩き残していた餓鬼岳、白沢の道を辿る。








パッキングは酒、水、ガス、食糧込みで11.2kg。ここに沢水2.5リットルを汲んで追加する予定で出発。




自宅から白沢登山口までを2時間弱とみていた。未明2時にカブに跨がって出発、白沢の谷には早めに着き3時半には山靴の紐を締めて歩き始める。



すこし前に、脚を痛めた。

しばらくギプスを付け、松葉杖の日々を過ごす。今後、山に行けなくなるのではないかという不安と闘いながら日にちを重ね、無事に回復を得る。だから白沢の水辺の心地よい響きは、僕の内なる喝采の響きでもあった。8月15日、そんな思いを抱いて僕は山に分け入ろうとしていた。








真っ暗な、銀河の果てより暗い闇の底を行く。白沢に架かるいくつもの滝の轟を全身に受けながら、へつり、ハシゴを攀じり桟橋を渡る。帰路に白昼の白沢を戻ったが、こんな場所をヘッデンひとつでよくぞ.... と呆れるほど。やがて現れた魚止めの滝は、ようやく明けかけた空の明かりを受けてほの白く浮かんでいた。





東側に開けた白沢の谷を縫って、朝の最初の光が差す。




最終水場で予定通り2.5リットルを追加。背中の荷がずしりと重くなる。




ひかりに満たされた空を仰いで、激登りの苦しみを紛らわせる。が、汗は止まることなく荷が軽くなることもない。




背後の鍬ノ峰より少し高い所まで来た。1,700mを超えたところだ。高度計は見るのが辛くて、時刻モードに切り替えている。




森のトレイル、気持ちの良い風景ではあるが、激登り。




大きな岩が横たわる谷地形の上の方、この開けたルンゼを少し詰めれば大凪山山頂は近いはず。




木漏れ日のトレイル、気持ちの良い風景ではあるが、激登り。




背後に雲海。




やがて針葉樹に笹が混じり出す。常念山脈では2,000mを超えるとこうした植生に変わる。




樹林越しに仰ぐ餓鬼のコブと唐沢岳。その仰角に愕然とし、また距離感に打ちのめされる。




針ノ木岳が見えた。峠の標高から現在地の高さを割り出す。そしてまた打ちのめされる。




大凪山のピーク。ここから尾根の上をなだらかにアップダウンしながら、時にはぐいぐい登りながら。




もう大福なしにはやってられません。草大福に見えるがこれは白大福。




鹿島槍が背中を押してくれる。その背中は、惨めな背中に見えているだろう。




尾根の南にはいくつもの岩壁がある。あああ、もう飛び込みたくなっている。




たくさんの猿たちが居た。こいつら、テント場にも出没。汚れたクッカーとかテントの外に出しておくと悪戯されそうだ。




ようやく、ようやく稜線に出て小屋の発電機の音を聴く。




間近に見る剣ズリ。安曇野側から吹き上げるガスも、常念山脈の夏の風景。




こじんまりしたテント場に、僕のエスパース。この夜は4張りが憩うた。




今回の小さな山旅の飯セット。

クッカーは湯沸かしに限定、煮込んだり炒めたりしない。いつもの【エバニューチタンクッカ−2】+【プリムススパイダー】よりも軽量化したくて、ポットは【MLVチタンクッカ−550】、食器は【GSIハルライトケトリスト】付属の【ネスティングボウル/マグ】をスタッキング。バーナー、カトラリ、オピネル、イムコのヒットがポット内に格納されている。




食事は全部、フリーズドライ。内容はアルファ米3食(1食は残った)、FDスープ5個、FD野菜数種。ツマミとおやつにナッツ、あめ玉、魚肉ソーセージ、ティーバッグ、スナック菓子小袋3個、そしてもっともたいせつな大福さま。あれば良かったものとして、朝食用の「焼き海苔」。なぜか食感を思い出してしまい、ツマミに欲しくなった。軽いし次回からは携えよう。




パッケージがぱんぱんに膨れ上がっている光景は、山に来てるんだなあと実感させてくれる。逆に、山で飲み干した空のペットボトルが、下界に戻ると潰れている。この時も、山に行ってきたんだなあと、しみじみ。




牛飯はなかなか良かった。




野菜スープもそれなりに満足感が得られた。酒のつまみに肉系の、たとえば缶詰とか燻製とか担ぎたかったが、ウエイトを考えて切り捨てている。まあ、致し方ない。僕の先生の茶柱師匠はいつも大量の肉類を担いできてくれるのだが、このことを思うと頭を垂れる思いだ。




夕方、安曇野方向を眺めやる。有明山と雲海を肴に、ウイスキーをぐびり。チタンポットを杯にしている。山で飲む酒は、とにかく美味い。




一夜明けて、16日。頭上に雲はなく、稜線にガスはない。

イスカのダウンジャケット&パンツのまま眠ってしまったようで、寒さに一度目覚め、モンベルの5番に潜り込んだら朝まで熟睡。当初03時に起きて唐沢岳往復、との思いもあったが04時半までぐっすりだった。




天文薄明に、未だ眠る槍。この荘厳な時間を記憶に留めようと、山を眺めてはカメラをいじり、空を仰いで下界を見晴るかす。そしてその記憶は、今こうしてタイピングしていても鮮やかに甦り、脳裏に刻まれた槍の姿に肌が粟立つ。




サンライズ。息を、飲む。




焼ける槍。




鋭峰二題。




有明山と常念。




この朝はホシガラスが飛び交っていた。




南にはるか吊尾根。リサイズ前の画像では、燕山荘のテント場が賑やかだ。




奥穂と燕岳山頂。燕山頂の上にロバの耳。北穂とジャンダルムを勘違いしてしまったが、ちゃんと北穂の小屋のテラスなんかが写ってる。




その右には、笠。手前に硫黄尾根の赤茶けた山肌も。





鷲羽、ワリモ、水晶。




劔と針ノ木岳。




鹿島槍と爺。




















唐沢岳への往復は、まだ完全じゃない膝の調子を鑑みて断念し、稜線に別れを告げよう。槍にアディオス!




餓鬼岳にアディオス!




稜線直下のチングルマ。秋を感じる瞬間だった。




往路の激登りは、激下りと転じる。最終水場まで辿り着いた時は、座り込むような疲労度だった。




白沢のハシゴたち。よくまあこれを真っ暗な中で....




へつりの鎖場。




無事に下山し、カブにキックを見舞ってトコトコと走る。北安曇野の田園で稜線方向を眺めると、すでにガスが巻いていた。




家に着いて庭に回る。テント場の砂に汚れたサンダルに履き替え、靴を洗う。テントに放水し物干にかける。シュラフも干す。装備を取り出してザックも干す。ここまでやってから、居間に上がる。さあ、部屋着で書斎にくつろぎ、洗濯機が回る音を聴きながら冷えたビアを....





山の神さま、ありがとうございました。