わたしの好物のひとつに、いわしがある。
いわしと聞けば何でも良く、干してあろうが漬けてあろうが、ためらいなく箸を延ばす。
平日、夜遅くに帰宅すれば、食卓には何もない。育ち盛りのこどもたちが、父の分までぺろりと平らげてしまうのだ。おかずも副菜も、時には白飯も、手鍋のみそ汁も。飯櫃(めしびつ)を覗いて、木曽檜の木目がきれいに洗われていた夜の切なさたるや....。
だから父は、わたしは、食糧を密やかに備蓄している。缶詰、レトルトパウチ、フリーズドライ、エトセトラ。備蓄場所は台所ではなく、書斎である。食の安全保障の基本である。
その夜は、オイルサーディンの缶詰があった。ニッカのウイスキーがペットボトルで売られており、この缶詰が付属していたのである。大きなペットボトルでウイスキーを買うことに躊躇(ためら)いがあるわたしであったが、いわしの缶詰に背中を押されて、買い物かごに不釣り合いなまでの大きなペットボトルを、レジに運んだのである。まぁ伊丸さんの御主人、あんな大きなウイスキーを.... と近所の人に悟られはしないか、レジ待ちの間にマシンガンのようなリズムを刻んでいた脈拍のことを書きたいが、本稿の趣旨から逸脱するので省く。
ふっくらと、ぷっくりと張ったいわしの魚体が官能的である。魚体というふた文字をタイプミスしてしまいそうである。オイルの照りがまた、妖艶である。理性を失わせるヴィジュアルが、いまここにある。
ぐつぐつと泡立つオイルが、濃厚な香りを立ち上らせる。海の幸にしてこの惑星の恵み、至高の魚種であるいわしの香りである。その源となった海のプランクトンたちのいのちが紡ぎ出した海の匂いである。わたしの胃袋はよじれ上がり、ごくりと生唾を飲む音が深夜の台所に響いたかもしれない。
よし、いまだ、火から下ろそう。
ここへ、辛味調味料を加える。タバスコも在庫しているが、自家製の唐辛子調味料の出番である。生の唐辛子を醤油麹に漬けて熟成させ、これをペースト状にしたものである。それはもう、辛いのである。
しかしわたしは、空腹のあまり、手元が怪しくなっている。からっぽの胃袋に流し込んだニッカも手伝って、容器を取り落としそうになったりする。
さて、唐辛子のペーストを.....
師匠、慌てすぎですw
返信削除さかしたさん。
削除遅くなりまして申し訳茄子。毎日遅くまで社畜の生活をしているものですから、macの前に座ることもなく。
いやあ、真に慌てるのは、噴出させた後で諏訪。
「やっちまった」って場面で、おのれを鎮めるためにゆっくりとアイフォーンをキッチンまで取りに行き、落ち着き払った風情でゆっくりと起動し、しかし手のひらが汗ばみ過ぎて指紋が認証されず、パスコードの入力ミスもさらりとかわし、再入力でカメラを起動し、なんどもフレーミングを変えながら撮影を完遂し、しずかにアイフォーンを置いて、キッチンペーパーを取るために立ち上がって、こほん、と咳払いをひとつ。まるで客を迎えて茶室に過ごす利休もかくや...と思わせる振る舞いであったことをご報告申し上げます。
山にも梅干しにも興味が無かったはずなのに
返信削除扇情的な文章と胃がよじれるような画像のせいでしょうか?
今年は実家の梅干しの仕込みを手伝ってしまいました。
今回はオイルとサーディンと大蒜とは。
食べる前から目眩がしてきました。
あの薮の.... さんこんにちは。
削除あの薮の....ということは「その薮....」からのお付き合いという理解で間違いないでしょうか。ご実家の梅仕事をお手伝いとは、これ重畳。きっとご利益があることとお喜び申し上げます
さらに踏み込んで、来年からはご自身の梅仕事をお始めなさるがよろしいかと、はばかりながら申し上げます。いつも書きますが、梅仕事こそ人生。梅仕事なき人生に光りなく、我が梅人生に一辺の悔いなし。花は梅の木おとこは梅干し、めまいがするほどしょっぱくて酸っぱい梅干しを、ぜし。